映画感想:笑いのカイブツ

公開日:2024/1/5

視聴日:2024/1/6

おすすめ度:8/10

sundae-films.com

―あらすじ―

「伝説のハガキ職人」として知られるツチヤタカユキの同名私小説を原作に、笑いにとり憑かれた男の純粋で激烈な半生を描いた人間ドラマ。

不器用で人間関係も不得意なツチヤタカユキは、テレビの大喜利番組にネタを投稿することを生きがいにしていた。毎日気が狂うほどにネタを考え続けて6年が経った頃、ついに実力を認められてお笑い劇場の作家見習いになるが、笑いを追求するあまり非常識な行動をとるツチヤは周囲に理解されず淘汰されてしまう。失望する彼を救ったのは、ある芸人のラジオ番組だった。番組にネタを投稿する「ハガキ職人」として注目を集めるようになったツチヤは、憧れの芸人から声を掛けられ上京することになるが……。

 

―感想―

面白かったけど見ていてとてもつらい気持ちになった映画だった。

"笑い"に取りつかれたように常に笑いのことを考えている人間の半生を描いた作品。

普通だったらそこまでしないといった、悪い言い方で言えば社会性の欠如が描かれていた。

それを見て辛いと思う、リアルさが主演の岡山天音さんの演技力があってこそなのだろう。

 

芸人のラジオは自分自身なんどか聞いたことがあるし、いまでもときどき聞く。

その中で、よく読まれるラジオネームというのはいるものでそう言った人はどんな人かというのは普通考えないだろう。

そういった面白さも一つの切り口だろう。

 

しかし、この映画を見て思ったのは一つのことを突き詰められる才能というのは普通の人とは一線を画す。

普通の人であればなにかに夢中になっても、一種のセーフティーが働く。食べるとか寝るとか普通に暮らすために必要なことをするために。

この作品の主人公はあくまでも手段であり、そこには異常さがあった。だから、タイルとの通りカイブツに取りつかれているように感じた。そしてそれは"清らかな狂気"であると感じた。

 

そしてその才能を持って、憧れの芸人と仕事をするチャンスをつかむのだが、その才能故に上手くいかない、いわゆるコミュ力である。

だから藻掻いて藻掻いて、とても辛い。そのなかで主人公が言う一つ一つが感情の塊と感じた。

上手く伝えられない主人公だからこそ、そこに嘘偽りはないのだ。

だから、後半自分の母に言った「笑う」ということについては"清らかな言葉"であったと思える。

そしてもう一つ、居酒屋で働いている友人が主人公に言っていた「皮肉なものだよな。他人を笑わせたいと思っているお前が他人のことで苦しむ」(セリフ全部は覚えていないのでニュアンスだけ)との話は、その通りだと思った。だからとても印象に残っている。

 

さて、この映画のなかで一つ思ったことがある。社会からつまはじきになった人間とそうでない人間が登場することだ。

社会からつまはじきになった人間として思ったのは、ツチヤ、ミカコ、ピンクである。

この3人の放つ言葉というのはとても"清らかな言葉"であると思った。

その一方で、劇場の演出家やメディア関係者などは他人を見て話している。相手の立場とか力とかである。それが普通であるのだが、そういった人間が悪いとかではないのだが、そこも一つの対比のように感じた。

 

笑いというものに取りつかれた怪物を通して、社会という大きな怪物の存在を感じたような気がする。